2003年 FIDICフランスパリ大会
Workshop-3 Ensuring that investments benefit a broad range of users
国際活動委員会副委員長 宮本正史
同セッションは、プロジェクトのリスクマネジメントに関する仏国CE企業5名の講演によるもので、プロジェクトのライフサイクル全般にわたる効率的なリスクマネジメント手法についての提案がなされた。リスクマネジメント関連のセッションとしては、これまで、小職が所属するリスクマネジメントフォーラム(RMF)主催のワークショップが大会期間中に一回だけ開催されるという図式であったが、今大会では、本セッションと最終日のRMF主催のセミナーに加え、大会2日目の第10ワークショップで「Professional Liability and the Engineering Market」が取り上げられている。欧州ではEC拡大や公共投資の低下に伴い、ライアビリティに関する関心が益々大きくなっているように感じられる。
5名の講演者とそのテーマは、以下の通りであり、最初の2名が基本的な手法について発表し、残り3名は概ねこの手法に沿った事例紹介という内容であった。
- Graham Dick氏 契約約款の慎重な選択によるリスク管理について
- Jean-Luc Sauvageon氏 リスクマネジメントの循環的プログラム
- Jacques Robert氏 トンネル工事における地質的リスク管理について
- J.Pouillot氏 石油化学産業におけるプラント建設におけるリスクマネジメントについて
- Virgile La Lumia氏 原子力発電所の原子炉におけるリスクマネジメント概念について
まず、Graham Dick氏による講演は、契約約款の適切な選択により、クライアント側としてどのようなリスク配分も可能であるとの提示がなされた。例えば、設計段階に深く関与したければ、エンジニアと直接の従前通りの契約を結べば良いし、性能のみに関心があれば、設計込みでジェネコンとDBあるいはEPC/Turnkey契約すれば良いという内容である。この方針に関しては、先般のFIDIC契約約款の改定思想に準じたものとなっている。そして、受託側は採用する契約約款に応じて慎重にリスクを把握・定義づけする必要があり、その結果にもとづくリスク管理は契約書類の作成において十分な配慮を行うことでかなりの範囲がカバーできるとの説明がなされた。そして、そのスキルは経験の蓄積によるところが大きい点に言及された。また、プロジェクト実施段階においては、確率手法を用いたリスク管理手法(Probabilistic Safety Analysis:PSA)が有効であり、事例としてJ.Pouillot氏によるトンネル工事での地質に依存するリスク管理が紹介された。例として、クライアントへの工期や工事費用の提案においては、地質リスクの程度を考慮した金額を示すべきだとの説明がなされた。また、こうした手法を用い、1)Partnership、2)ユーザー・コミュニケーション、3)費用積算、4)技術管理、5)工期・コスト管理の面で十分なリスクマネジメントが必要との説明がなされた。
一方、プラントのような大規模・複雑系の施設のリスクマネジメントに関しては、究極のところプロジェクトマネジメントしかなく、唯一の方法であるとの説明がなされた。特に、フランスでは、地方分権化が進み、クライアントはもはや十分な技術を保有しなくなっており、如何に彼らをサポートできるかが重要となっている。こうした施設の建設に際しては、リスクを考慮したトータルコストの観点から経済的な提案が必要で、操作や施設更新にも十分な考慮が必要である。そして、リスクの少ない操作ができるよう、設計の初期段階から配慮しておく必要があり、エンジニアの責任は大きい。このような管理を行うに際しては、Jean-Luc Sauvageon氏によるリスク同定→リスク評価→リスク対応策検討→リスクマネジメント計画+資金計画という循環的手順が有効であり、J.Pouillot氏およびVirgile La Lumia氏により、それぞれ石油化学プラント建設、原子力発電所の原子炉建設に関するリスクマネジメントの事例が紹介された。
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